「あまね通信」48号、天音11歳11か月(1993年5月刊)

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娘の天音の様子を知友に知らせる便りとして、妻のヒロミが中心(編集長)になって夫婦で「あまね通信」といううミニコミを、1988年2月に創刊しました。
創刊号から60号までのうち、ヒロミの文章のみを一冊の本にまとめたのが『寝たきり少女の喘鳴(こえ)が聞こえる』で、自然食通信社から上梓してもらいました。1995年5月刊。
エキサイトブログでは【平明文集】というカテゴリーで、天音堂ギャラリーの堂守こと山口平明の文章、とくに単行本化されていない文章を掲載していきます。
とりわけ天音と共棲していた時代の文章を中心にしていきます。ご愛読くだされば書き手冥利に尽きるというものです。よろしゅうにおつきあいください。




●漫文●「あまね通信」48号掲載(930515発行)

【「あまね通信」のできるまで物語】・・・・・・・・・・山口平明


 前号からA5判12頁建てになった「あまね通信」、文字の総量は8頁建てのときと同じぐらい。なぜかというと文字を大きくしたからだ。ワッ、文字が多いな、と敬遠せず、老眼傾向の人には楽になったはずなので、忙しいでしょうが、読んでやってください。

 そこで、通信の制作をほとんど全て担っているヒロミ編集長に、その裏話を聞いて読者にお伝えしよう。まず自分の原稿は天音が寝ない時間、夜中の二時ごろに下書きし、昼から天音を抱いたり、泣かせたりしながら版下(印刷するための元になる見開き2頁の台紙)に、ロットリングという製図用のペンで直接書きこむ。

 46号までは一つの枡目が三・七五ミリだったので〇・一ミリのペンを使用していたが、小さいと見づらくなってきたのと、天音を膝にのせて書くのはやりにくいため、枡目を四・五ミリに大きくして、ペンも〇・二ミリに換えたら随分と楽になった。

 創刊以来五年になり、ペンも〇・一ミリは折れやすく、この間五、六本換えているとか(一本二千円)。「私の筆圧が高いせいだと思う」とヒロミ氏。国産のパイロットやホルベインの〇・一ミリの水性インクのペンも使ってみたが、かすんだり、にじんだりして駄目、安いんだけどね。ドイツ製のロットリングのように、安定した書き味のものは今のところないみたい。

 僕の原稿は、版下が出来上がって、あとは僕のところだけが白く空けてある状態になってやっと書きあげるのがツネなので、いつも怒られている。スミマセン。

 カットに入っている絵は全て、やはりヒロミ氏が、ロットリングのアートペンの一・五ミリやEFと、文字用の〇・一ミリとか時に筆ペンを使って描く。タイトルもアートペンで書く。「文章は苦手で四苦八苦している、いつも絵の方が先にできる、下手だけど絵はもともと好きなので描いていて楽しい」とのこと。

 じっとしていてくれない天音をモデルに絵を描くのは難しい、日頃、カメラを日記がわりにしている僕が撮った写真を参考にしながら描くことが多い。文章では伝えられない天音の様子や表情を、絵で伝えられたらと願っている。

 ロットリングは製図ペンなので、ペン先も精巧だし、インクもムラがなくて、謄写版印刷の粗さもカバーしてくれる。当節はリソグラフだのゲステットナーだのといって、電子製版で紙の版に穴をあけるところは昔のガリ版に比べると進歩が著しい印刷機が現れた。オフセット印刷のような精度は望めないものの、費用が安いのと素人の手で扱えるので、学校や団体事務所などに設置されているようだ。

 天音を抱いたときのマシュマロのような柔らかさや触ったときの温かさに、通信の雰囲気をできるだけ近づけたいというのが編集長のいつも考えていること。謄写版印刷の採用は仕方ないとしても、ロットリング・ペンのキレのよい印刷仕上がりを保ちながら、もう少し柔らかい感じに書ける筆記具とインクはないものか。ロットリングを使っても、文字をもっと柔らかい書体で書けたらいいのかもしれないが。

 僕の原稿は創刊して間もなく、ワープロで打ったものを渡しているのだが、ヒロミ氏はこれをわざわざ手書きで書き直していく。これもまた天音に近づけたいという先の方針にそって、手書き文字の温もりや手ざわりを大切にしようというわけだ。ヒロミ氏が教師をやめて急に家庭に入り看護生活に明け暮れていると、文字も忘れ、頭も鈍くなっていくだろうから、手書きはちょうどいいボケ防止かもしれない、と僕は思っている。

 ベランダに面した和室は天音とその母が寝るところだが、片隅に和風のビューロー机があり、昼間はここで主に制作作業を進める。僕は玄関ドアそばの仕事部屋で、淋しくワープロに向かう。

 さて版下の用紙だが、これは教師時代から馴染みの市販の学級通信用紙を使っている。枡目が印刷に出ないように薄い青でできた版下用紙である。静風堂という書店が作っているもので、大阪ナンバのその店で買っている。一冊五〇シートで八三〇円、B4判サイズのをA4判に切りおとして使用している。他に、日本機関誌センターという会社からも同様な版下用紙が発売されている。

 版下ができたら、さあさあ印刷だ。創刊のころからしばらくは近くのビデオのレンタルショップにある一枚十円のコピー機を使っていたが、人の少ない時間をねらっていくのがウチのような家の場合は大変で、おまけに両面コピーはあまり仕上がりがよくない。それで、僕が関係していた会社にあるゲステットナーの印刷機を借りて刷っていた。

 初めは三〇人ほどの天音を知ってくれている読者に送っていたので、保存も含め四〇部刷っていた。現在では七〇部近くになり、一〇〇部刷っている。僕が関係先の会社を引いたため、とりあえず46号は再びビデオ店のコピーで片面のみを刷り、僕が仕事で使っている家庭用のキャノン製コピー機で裏面を一枚ずつ手差しで刷った。かなり時間がかかるうえに、僕の仕事部屋にあの何ともいえないオゾンだかなんだか知らないコピー機から発生する異様な匂いがしばらく残って堪らなかった。

 前号はヒロミ氏の知人にお願いして、ある事務所のゲステットナーで印刷した。印刷代は千円以下のお礼ですんでいる。当分ここでお願いできそうである。

 印刷用紙は、PPC用紙と呼ばれる複写用のA4判上質紙(一包五〇〇枚で七百円前後)を持込み使っている。

 印刷がすむと、自宅の食卓で折り上げて頁どおりに挟みこみ、読者ひとり一人の顔を思い浮かべつつ、題字の下に宛名とちょっと一筆をカラー筆ペンで書き添え、二つ折りにして、かねて用意の切手と宛名を貼った封筒に入れて、糊で封をして、数と宛名を確認し、たいてい深夜にポストに投ずるという段取りである。この間も抱かないと、天音は泣きつづけていることが多い。「私はどうなるの、あまね通信なのに」と天音が言いそうだ。

 封筒は62円で送れる郵便定型いっぱいの長3という大きさで、無印良品や事務用の二五枚で一八〇円ぐらいのを使い、宛名はコピーしたのを切って糊で貼り、切手はあれこれと算段して手にいれた記念切手を用いる。お気づきでしょうか、封筒の封をした部分に、赤い「あ」というスタンプが押してあるのを。これは人参に彫った手作りのスタンプで、一度に百枚ぐらい手隙の時間に押しておくのだそうです。次には使えないから、大きさも文字も微妙に変化している。ヒロミ氏が、絵を描くのと同じように楽しんでいる感じである。

 天音がおとなしくしてくれているような時間に、封筒に宛名票や切手を貼り、版下に枠どりの罫線を引き、題字のツブシを書いていき、じわじわと制作への気持を盛り上げていく。原稿に着手して、だいたい二週間ほどで完成し、夜中の投函となるのがこのところのパターンである。

 遅れがちの平明氏(僕です)の原稿については、「さっさと書いてほしいだけ。いつもお尻たたかんと書いてくれないし、せっつくと怒って必ず喧嘩になる、ええ加減にしてほしい」とのことだ。今回もまた遅れてしまったのは言うまでもない。
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by amanedo_g | 2006-01-01 18:18 | haymay 山口平明
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