【平明文集】☆「そぞろ通信」23号☆2003-8-16配信分

〇堂守こと山口平明が過去に書いたテキスト(文章)を再録転載しています。
ご興味のあるかたは、左下のMoreをクリックしてご覧ください。







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★そぞろ通信★8月号*2003-8-16
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発行☆山口平明(天音堂G)
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■もくじ■[1]漫歩系_日曜日の夕暮のそぞろ歩き-山口平明[2]家事細
見帖・夜中起きの巻-岡本尚子[3]編輯後記-たいら・あきら
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■1■漫歩系|御堂筋本町あたり少女が立つ.......山口平明

  【日曜日の夕暮のそぞろ歩き】

日曜日の午後、ラジオで、彫刻家・船越保武のエッセイ「水仙の花」
を朗読していた。高校講座「現代文」みたいだ。

新聞を読んでいたのになぜ耳に入ってきたのかというと、わが子を喪
ったときの話だったからだ。たった八か月の男の子が肺炎で死んだ。名
前は一馬という。

船越はお兄さんからもらったお金をもって、セルロイドの玩具のガラ
ガラを買いに自転車を走らせる。幼児が死んでじっとしていてはいけな
い、と思ったのである。ガラガラを買ってきて、わが子の冷たくなった
頬にくっつけて置く。

つぎにまた自転車に乗って従兄弟の家に行き、庭に咲いている黄色い
水仙の花をほとんど刈ってもらい、赤ちゃんの棺のなかを黄色い花で埋
める。船越の妻は、「ゴメンナサイネ」と言いながら水仙の花を一輪ず
つ置いていく。

死に顔を見ながら二人とも「きれいだ」「こんなにきれいなのに」と
繰り返し呟く。黄色い花のなかから見えている顔は、眼のまわりがくぼ
んでうす青くまるで西洋人形のようであった。

敗戦直後のことで絵具が揃っていなくて、グレイの画用紙にパステル
で、幼い死顔を描いた。描きながら「天使のようだ」と呟いたときにふ
いと涙があふれた。

《画面に涙が落ちてはいけないので、用心深く涙をぬぐった。写真を
撮ることも出来ないような貧しい暮しであった。/このパステル画だけ
が、幼く死んだ子のたった一つの記録になって残った。一馬の顔の透け
るような顔は、パステルがよく合っていた。パステルで描いてよかった。
/うまく描けたと、私は喜ぶ気持になったことを憶えている。子供の死
顔を描いて喜ぶ親がどこにあるか。それでもその記憶がある。》(船越
保武『石の音 石の影』1985筑摩書房刊、市立図書館で借覧)

キリスト教では幼な子が死ぬとまっすぐ天国に昇ると聞くから、船越
さんは「天国にいる一馬の顔」を描いたように思う。眼のあたりのくぼ
みは栄養が足りなかったせいかもしれない、肺炎ですぐ死んでしまうほ
ど弱い躰だった。これもまた貧しさのせいである。

疎開地の丘の上の教会墓地。白い木の十字架のまわりは黄色い水仙の
花で埋まっている。曇り空の下、そこだけに光りが差しているようだっ
た。お葬式のあとしばらくして、妻[船越道子]は「一馬の墓に雨が降る」
という詩を書いたという。読んでみたいものだ。近くの図書館にはなか
った。

その後、木の十字架に代えて、花崗岩で十字架の形の墓石になってい
るという。表に「ヨハネ・一馬」、裏面には水仙の花の線彫り。

インターネットで検索したら、船越作品が御堂筋に飾ってあるとあっ
た。妻は仕事で留守。散歩のつもりで出かけた。御堂筋も北へ歩くにつ
れ人けがなくなり、クルマの数も少ない。

少女の立像は御堂筋本町の舗道に置かれていた。本物は釧路にあるら
しい。釧路は道子さんの郷里である。少女のやさしいやわらかな顔は、
西洋のものであった。

御堂筋から東へ寄った心斎橋筋を南下。古本リサイクルのチェーン店
をのぞく。新刊書は買おうという気持がまったく失せている。経済のこ
ともあるが、もう置く場所がない。去年かなり処分整理したけれど、ま
だまだ残っている。

古本屋さんではざっと棚を見るだけ。よほど探していた本とかがあれ
ば買わなくもない。すっかり老人力がついたから、探していて読みたい
と思っていた本の書名が思いだせない。楽しいね。

この店ではウリの100円の棚を見る。徳永進医師の『ホスピス通り
の四季』の文庫本があった。一九九八年に新潮社から単行本として出て
いる分。定価514円が100円というのは買い得、文庫は場所をとら
ないから買おうかな。誰かにあげるのにもいいしね。

でも文庫といえど置き場所に困るのは同じだしなあ。迷った末に買う
ことにしたのは、徳永先生が聞かせてくれる患者さんたちに久しぶりに
逢いたくなったからだ。もうほとんどトクナガ依存症みたいなもんだね、
これは。

長堀通にかかる。西を見やると、夕日が沈もうとしている。ほとんど
水平の位置だ。一応、ぼくは仏教徒だと思っている。キリスト教では向
こうの世界は「天国」かも知らないが、仏教では西方「浄土」というで
はないか。娘の天音があの西方saihouの彼方で、呼吸も楽になって遊ん
でいるのかもしれない。一馬さんとも逢っただろうか。 (030816記)//
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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■2
■家事細見帖/夜中起きの巻.....................岡本尚子

ひまわりや 呼吸器の子の 眉動き

 子育てという家事を始めてから、睡眠という時間は自分のものではな
くなった。

 ふとんに入ると「さあ、夜はこれから」と思った。乳飲ましの時期が
終わると、夜泣き、夜泣きが終わるとぜん息発作。ぜん息発作が毎夜続
いた夜、ついに「うるさい!せきをするな!」と叫んだオニ母である。

子どもによって起こされるのが少ない多いはあったけれど、五人目が
二歳の時一度、一夜に何回起きるか数えたことがあった(よく数えるヤ
ッチャ)。二十数回まで数えてやめた。今は…小学三年になったけれど
アトピー性皮フ炎で、「かゆーい」と起こされるのだ。タハハ。

 桜が満開の時、愛知県に取材に行った。ウェルド・ニッヒホフマン病
(乳児性進行性筋無力症)のため、人工呼吸器をつけたMちゃんの家に。
お母さんは四歳のMちゃんの他に、三歳、六歳の子がいて三人の子持ち
である。

 「何がしたいって寝たいです」と笑っていたお母さん。脈拍数や血液
中の酸素を示す装置がMちゃんの周りにある。異常値を示すとアラーム
が鳴る。「アラームがならなくても目がさめる」という。

 そんな中でも、家事もし、子育てもし、明るく可憐なお母さんだった。

 Mちゃんはくっきりした眉毛を返事のかわりに動かしていた。

あの時桜のイメージだったMちゃんは、この夏、初めてフェリーに乗
り、お父さんの故郷に渡る。
[平明洞落書]
娘の天音はほんとに寝ない子だった。寝たきり少女なのにね。眠らな
くても平気で、三日もつづけて眠らず発作も頻繁に起こした。
細君のヒロミは昔から朝は不機嫌な人だったから、天音につきあって
睡眠が足りなくなると、夕方まで使い物にならない。せめてお昼まで寝
ていてもらうことにした。ときによるが、天音は夜明けから三、四時間
は寝てくれるので、午前中は母子で討ち死にしていた。
さあ難儀なのは、働くお父さんのぼくである。自宅で仕事をしていた
ものの、会議や取材で午前中に外出するときは、電話のベルは無音に切
り替えるのはもちろん、訪問者が玄関のチャイムを鳴らさないように、
ドアに「用事のかたは昼から」と貼紙をしておいて出かけた。
在宅のときでも訪問者には「チャイムは鳴らさず、ノックしてね」と
別の紙を貼っておいた。ドアに近いわが仕事部屋はまた玄関番の詰所で
もあった。この秋からぼくは画廊の店番をする。詰所兼仕事部屋は画廊
に移ることになる。遊びに来てね。

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3■編|輯|後|記............................たいら・あきら

★「そぞろ通信」の子分みたいなメールのフライヤー「天音堂だより」
も、週刊で3号になりました。「そぞろ通信」今号を配信し終えたら、
「たより」にとりかからねば。ちょっと忙しくなってきました。「天音
堂だより」をご希望のかたは、私平明まで連絡をください。
★パレスチナ関連で板垣雄三氏の講演を聞いた。イラクについては豊
田直巳氏の写真展を見た。これは大阪城で反戦人文字(私たちも参加)を
企画した高校生グループが主催したらしい。いずれもそこへ行かなけれ
ば感じられないはずの、表情・匂い・空気・光と影を体験できた。
★さて、天音堂ギャラリーはですねえ、サロン(茶論)・寄り合い所・
カフェ・ミルクホール・無料貸本屋・老人党そぞろ支部などなど、ギャ
ラリー/画廊以外にもお楽しみを企んでいきまっせ。できるかな…。◎
本誌は【1行32字】で改行、閲覧には【等幅フォント】が推奨です◎==
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月刊【そぞろ通信】8月号_#23□2003-8-16発行配信
創刊2001-10-16□「あまね通信」改題通巻108号
編輯発行人□山口平明(天音堂ギャラリー)
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by amanedo_g | 2008-08-24 23:30 | haymay 山口平明
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