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【平明文集】☆「そぞろ通信」34号☆2004-7-16 配信分

〇堂守こと山口平明が過去に書いたテキスト(文章)を再録転載しています。
ご興味のあるかたは、左下のMoreをクリックしてご覧ください。





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★そぞろ通信★7月号*2004_7_16
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発行☆山口平明(大阪・天音堂G)
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■もくじ■

[1]十八歳、天音の四季をたどる《3》_/~山口平明
[2]松下竜一さんの訃音によせて_/~山口平明
[3]連載[家事細見帖] 麦茶作りの巻_/~岡本尚子
[4]編輯後記[ここから読むのはかなり]_/~haymay山口

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■1■《archives》十八歳、天音の四季をたどる《3》[一九九九年六月] 山口平明

☆━━━━━━介護しながら表現活動━━━━━━☆

【六月一日】夕方、いつものとおり散歩に出た。もうショートパンツをはいた太股丸出しの女の子が歩いている。じっと見つめるのはセクハラか、ちらっと見るのは許容範囲か。夏がく~れば思い悩む私である。「じっ」と「ちらっ」の間と申しましょうか、相手にさとられないようにできるだけ長く見ると、なんだか得した気分になる。リハビリ散歩の楽しみでもある。

 女の子に見とれてて転びなさんな、と妻君にたしなめられているのだが、助平なおっさん根性は、なかなか消えないのじゃないかと思うておるしだい。

【六月二日】飲み友だちのOHさん来宅。缶ビールを多量に持参。天音を赤ん坊のときから知っているこの人は、生野区の障害者のグループホームで世話人をしている。飲兵衛でならした彼も年を経て酒量は落ちているみたいで、あっというまにろれつがあやしくなる。

 ここんところ酒で失敗の続いている私は、あくまで冷静である。妻君に目配せして彼を外へつれだした。すけべも困りもんだがのんべもいやはや持て余しもんである。

 繁華街ミナミの御堂筋に面して建つお寺の隣のビルにある酒場へ伴う。Oさん御機嫌すこぶるよろし。前非を深く悔いておる冷静な私は、友人のボトルを探しだしのんべに大いにふるまった。この人、酒についてまったく遠慮というものがない。友人のボトルはたちまち空になり、しかたなく私の秘蔵のボトルを供出する。これも空っぽになる。ええい矢でも鉄砲でもとなるのは酒精のなせる必定か。新しいボトルを入れて、割勘にして得した気分で彼を駅まで送る冷静な私である。

 Oさんがまだろれつがしっかりしているときに、妻君と私を交互に見ながら「介護、介護とゆうても、天音ちゃんみたいに両親以外に他人が介護できないケースがあるなんて、行政の人間には判らんのです」という。

 わが家に来てくれているヘルパーさんだって、半年間は暗中模索、試行錯誤の状態で、少しずつ少しずつ天音に馴れていき天音も彼女に馴れていったのだった。福祉分野だけではないのだろうが、制度も施設も予算も大切だけれど、つまるところ最も肝心なのは、「人」ということなのである。

【六月三日】妻君のヒロミは「忙しい忙しい」と仕事に追われている。月刊誌「母の友」のカラー銅版画と短文の仕事がきついようだ。月刊の「草の根通信」、季刊の「ちいさい・おおきい」はともに銅版画の習練の場としてよかったのに、「母の友」はいきなりカラーで原稿料もいただくとなれば、一年連載もちょうどここらあたりが胸突き八丁なのではないか。「気が変になりそう」と口走りつつ、妻君に似合わず無口になって私が話しかけても絵のことを考えているのか知らん顔なんである。

 そこへもってきてわが家のミニコミ「あまね通信」81号の発行時期が迫ってきた。「空いた時間に版下に貼りこみしていくから、早めに原稿ちょうだいねっ」とのお達しである。

 他家と異なりわが家は、抱っこせがみ要求貫徹絶叫少女がいる。このゼッキョウさんのお世話に追われながらの無から有を産みだす創作活動をせねばならないのだから、ヒロミさんならずとも気も変になろうというもの。夫婦関係も悪化の坂道を転げ落ちてゆくのである。夫婦喧嘩の不連続線がよぎって、穏やかであるべき家庭内に大雨やら突風をもたらす。

【六月六日】天音は紙オシメを使っている。赤ちゃん用のLサイズで腰回りはちょうどいい大きさだ。太股は胡瓜ぐらいの太さしかないので、隙間から尿が漏れやすい。かつてとちがい当今の紙オシメは薄くても吸収力は強くなっているはずなのに前にもまして漏れる。おかしいねえ、と夫婦して首をかしげていた。

 いつだったか母親が天音のオシメを取り替えようと開いたとき、娘はおしっこを噴き上げたのである。あわてて端をあてて飛び散らないように防いだのだが、そっとオシメの上端を開くと股の小さなデルタ地帯に小水はなみなみとダム湖をつくっていたらしい。あの量ならいくら吸収力がよくても無理だわ、と妻君は大発見でもしたように私に報告したものである。

 尿漏れすると天音の着ているものばかりか、抱いている人のズボンまで濡らしてしまう。歯科センターにお出かけのさい、タクシーにのりこむと私は天音を抱いた妻君の膝に別の紙オシメを敷いて予防策としたものである。

 オシメの中にこれも紙でできている尿とりパッドを挿し入れても漏れる。そこで縦に敷いている尿とりパッドを横にしてみたらいいのじゃないか、とヒロミ母は妙案を思いついた。暑くなってきたら蒸れるからよくないけど、案外いけるかもね、と得意顔。

【六月七日】大阪で出版業をしている友人のEAさんに紹介してもらった松栄印刷へ出向く。わが家から私の足で十五分。会長の奥佐(たすく)さんは八十四歳でかくしゃくたるもの。この翁は中国大陸からの引揚者だそうで、中国人留学生や残留孤児で日本に帰国した方々のお世話を永年やってこられた篤志の人である。

 こちらの事情をかいつまんで話し、見積もりをしてもらう。なんとかいけそう。私たち夫婦は原稿を書きその文字をワープロで打ち出し、レイアウトを考えて版下に貼りこみ、カットも貼りつけ校正もすませて完全版下にして奥さんにもちこむ。印刷会社のほうでは製版・印刷・製本をしてくれる。

 今までは文字をヒロミさんが手書きで版下に書きこみ、私がリソグラフなどの簡易印刷で製版と印刷を行い、天音を泣かしたり交替で抱っこしつつ折り製本をしてきたのだった。このやり方で80号まできたけれど、私の病気や妻君に絵の仕事の注文がくるなどの理由もあって、手書きをやめワープロ文字にし印刷をプロにお願いしようと、私が独走気味に始めたわけである。

 そこで今までずっと購読料はもらわずにきたけれど、今年から郵送料(一二〇円)と印刷実費を読者に負担してもらうことにした。お布施あるいは会費と称している。お金を払ってまで読みたくない、となればそれはそれで仕方がない。発行回数は減るけれど、これまでのやり方で続けていこうと思っていた。ところがほとんどの読者はお金を喜捨してくれ「読んでやろう」の意志を示してくれた。

 病気の後遺症もあって無気力になっていた私は、大いなる元気が湧いてきた。雀百までなのか、編集者気質がもぞもぞとうごめきはじめる。もちろん若いころのようにはいかない。力あふるるヒロミさんにひっぱってもらい支えていただく凸凹二人三脚でいくしかないのである。しかもゼッキョウさんを中心に抱えながら。

【六月八日】夕方、散歩をかねて大阪ドームへ歩いていく。阪神広島戦。外野席もすべて売り切れ。レストランの窓越しに観客で一杯のスタンドをちらと眺める。外のデッキをひと回りして帰宅。〔阪神タイガースはこのあと束の間首位に立ったはず。八月、わが広島はずっと落ちつづけ、暗転の野村阪神とテールエンドを譲り合いながらじっくりと争っている。〕

【六月十七日】天音誕生日、十八歳。カードと花束をあちこちの知己友人からいただく。年齢からいくと少女というわけにもいかないかも。小さいから「小」女と書くべきか。今年、父は五十六歳、母は五十四歳になる。

【六月二十六日】いつものヘルパーさんを頼んで、天音の着替えと食事をしてもらう。ヒロミさんは西宮の工房へ銅版画の刷りに行く。家のプレス機では刷れない大きな絵である。七月中旬に開かれる銅版画教室の展覧会に出品予定の作品。画家としてのヒロミさんはほんとに忙しい。

【六月二十八日】いよいよ「あまね通信」81号の版下出稿だ。松栄印刷へ持参。この間、天音はよく耐え、母と父はよくやり抜いたもんだ。
(初出「草の根通信」一九九九年九月号、単行本未収録)

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■2■松下竜一さんの訃音によせて.........山口平明

【涙通信、受けてください】

死に急ぐことはない、と年下の畏友にいわれた。
そう見えたのだったか。
六十歳の峠、余命はいかほどか計れない。
齢、よわい、弱いに通ぜんか。
予後のリハビリにパソコンにいどんだ松下竜一。
一行、入力して、「涙通信」と名付く。
最後の最期まで編集者だった松下竜一。
「草の根通信」から「涙通信」、そうして。
死者指折り数えれば叶わぬ親炙いよいよ深まる。
魂の孤独。

円環めぐりて閉じようとする還暦。
あるとしてのもう一つの環は小さくて弱いとしか。
松下竜一に予後は一年、天音にひと月。
もっと緩やかにもっと密やかに死を生きよ。
永訣から再会へ。
手の平にのこされた涙通信。
「そうそう、泣くだけ泣いたらいい」
涙通信、今宵も入力しているあの世とこの世。
受けてもらえるだろうか。
「たまきはるいのちなりけり
ははとちちにだかれだかれて
いきしとうとさ」竜一

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■3■連載[家事細見帖]麦茶作りの巻_/~岡本尚子

【一日を 麦湯沸かして 暮れにけり】

今年はセミの鳴き始めるのが1週間早かった(大阪市阿倍野区住宅密集地に限り)。 

夏のお仕事。麦茶作り。朝から3リットルのやかんにグラグラと沸かし、冷ます。台所はストーブを燃やしたのと同じ状態。家人は逃げていき、わたくしだけが台所に残る。冷水筒二つを洗い、麦茶を入れ、冷蔵庫に入れる。

 家人はのどがかわけば、台所にやってきて、冷たい麦茶をゴクゴクと飲む。いいなあ。わたくしは胃が弱いので、これをすると、あとで胃がしんどくなる。熱いお茶だけである。

 家人は六人で冷たい麦茶を飲み荒らし、茶ぶ台にカラのコップを置いていく。わたくしはまた麦茶を沸かす。冷やす。

 ダダダー。「おばちゃん、お茶!」。子どもの友だちが数人駆けこんでくる。冷水筒は一度にカラになる。わたくしはまた麦茶を沸かす。コップを洗う。

夜が来ても家人は麦茶を飲む。晩ご飯が終わると、また、カラになっている。また沸かす。

夜の食器洗いが終わり、ふり向くと、またカラのコップが、たくさんちゃぶ台に並んでいる。わたくしは麦茶を沸かす。

寝る前。ちゃぶ台を見ると、またコップが並んでいる。わたくしは、この日最後の麦茶を沸かす…。

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■4■編輯後記henshukoki玄人好みコーナー やまぐちへいめい

▽[1]は一九九九年(死の前年)、天音が十八歳のころ、松下竜一さん主宰発行のミニコミ「草の根通信」に毎月連載で書いていたものです。単行本に未収録分を本誌「そぞろ通信」に再録しております。今号はその第三回目。

松下さんは新聞で既報のとおり、本誌を発行配信した翌日、六月十七日に逝去されました。すぐにはなにも反応できず、わずかにインターネットの画廊日誌にちょっとふれただけです。一か月がたってやっと思いを書いてみたのが、[2]の文章(断章)です。

▽[3]の岡本尚子さん。前回「洗濯機ガの巻」でちょっとネタがつきかけてきたかと危ぶんでいたのでしたが、大丈夫のようでしたね。どんどん散文が短くなって、やがて俳句だけというのもありかなと編集者としては思ってました。ひとまず安心です。


▽天音堂ギャラリーにかかわることは、インターネットの日記に書いて
います。ここんところ駄文ながら毎日書けています。忙しくなればとだ
えるけれど、いまが読みどきであります。

★「そぞろ通信」の再録転載の文よりも新しい文を読みたいと思ってい
ただける読者さまは、ぜひインターネットの日記のほうを読んでくださ
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月刊【そぞろ通信】7月号_#34□2004_7_16発行配信
創刊2001-10-16□「あまね通信」改題通巻118号

編輯発行人□山口平明(天音堂ギャラリー)

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by amanedo_g | 2008-09-04 00:10 | haymay 山口平明
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