【平明文集】☆「そぞろ通信」36号☆2004-9-23 配信分

〇堂守こと山口平明が過去に書いたテキスト(文章)を再録転載しています。
ご興味のあるかたは、左下のMoreをクリックしてご覧ください。
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山口ヒロミ、terra cotta、2003





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★そぞろ通信★9月号*2004_9_23
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発行☆山口平明(大阪・天音堂G)
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■もくじ■

[1]archives◇ 十八歳、天音の四季をたどる《5》_/~山口平明
[2]連載[家事細見帖] ちゃぶ台上のモノの巻_/~岡本尚子
[3]編輯後記[もういまや誰も読まないコーナー]_/~haymay山口

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■1■《archives》十八歳、天音の四季をたどる《5》[一九九九年八
月~九月] 山口平明

【五年前の九月ごろ、あなたはどこでなにをしていましたか】

※以下の文章は、一九九九年(天音の死の前年)、天音が十八歳のころ、
松下竜一さん主宰発行のミニコミ「草の根通信」に毎月連載で書いてい
たものです。なお松下竜一さんは、今年六月十七日に逝去されました。

◆━━━━━━嬉しい私と冷静な私━━━━━━◆

【八月十三日】ヘルパー派遣会社からやってきたMさんが天音を抱っ
こしてくれる。彼女は慎重な性格の人みたいで、天音が首を後ろへ反ら
せると、その力に負けて膝上でのお座り姿勢の維持がむずかしくなる。
お腹や腰まで反ってしまうからだ。

 ほんの少し助言しやって見せる。これは慣れてもらういがいにない。
まだまだ天音は居心地がよくないようだ。時間をかけてやっていきまし
ょう、両親でも抱っこのしかたは違うので、天音があなたの躰にそって
くるような姿勢を見つけてね、といっておく。

 このところ不眠で朝九時前後から昼まで眠るパターンだ。起きてしば
らくは躰がだるい。でも頭痛はない。それで安心して、不眠は気にとめ
ないようにしている。

【八月十六日】「草の根通信の読者という青年がうちの店へ来てます。
そちらへ向かわせますから、相手をしてやってください」と真田山公園
の喫茶店「風まかせ人まかせ」の宗秋月さんから電話がかかる。

 夕暮れになって青年はやってきた。関東の大都市に住む三十六歳、無
職、大学をでて仕事をあれこれしてタンス貯金をしてはぶらぶらしてい
ると消え入りそうな声で話してくれる。自分からは話そうとしない。定
職にはついたことなし。両親と同居、独身。「草の根通信」は東京の模
索舎で買っていたが、今春から定期購読をしている。届くと真っ先に山
口の執筆頁を読む、なんて小さな声でいう。おどおどしているわりにお
べんちゃらはいえるやないか。妻君は飲物をもってきたあと居間に天音
とひっこんだきりである。

 妻君の本も私の本も買ってくれている。お客さまなんである。それに
してもこのお客さま、足がひどく臭い。聞くと昨夜は神戸の公園で野宿
したという。匂いに敏感な私の鼻はひん曲がりそうになった。

 今夜はカプセルホテルに泊まるというので散歩がてら送ってでる。宿
泊予算は三千円、近くのカプセルホテルまで同行し、看板に二千八百円
とあったので安心して別れる。

 帰ってみると珍しく天音は宵寝をしている。いっかな起きようとしな
い。妻君は銅版画をやり食事もすませていた。あまりよく眠っているも
のだから天音のお風呂は無しにする。ふいの来客と天音の宵寝でなんだ
か調子がおかしくなってしまった。

 やれやれと夜中に入浴していると、突然妻君が風呂の扉を開け「いま
目が醒めたからつけるだけでいいから入れてやって」と裸の天音をわた
されてしまう。父と天音の入浴は病後はじめてである。足元に気をつけ
落とさないようにして妻君にわたしおえてほっとして浴槽にへたりこん
だ。今日はほんとに予期せぬことが多い日だこと。

【八月二十五日】昨夜といっても朝四時から連続で七時間も眠れた。
本当に久しぶりだ。躰のだるさもほとんど感じられない。つづくといい
のだが、でも嬉しいなあ。

【八月二十六日】二十代の女性・Fさんより「あまね通信」の私の短
文に感想の便りがくる。《人に分かってもらおうと書く、そういう文章
ばかりが目につく日々のなか、久しぶりに静かに読みすすむことができ
た素敵な言葉たちでした》、これまた嬉しくなる。おべんちゃらでもい
いや。勤めをすませて帰った独りの部屋で夜、《ただ静かに内に向かっ
て言葉を投げかける時間がとても好き》だと、彼女の便りは結ばれてい
た。

【九月一日】八月いっぱいずっと調べ物で文献資料と首っ引きがわざ
わいしたのか、かなりきつい頭痛がする。たまらず横になる。手術した
のがちょうど二年前の同じ日だった。なにか関係でもあるのかと病者は
とかく不安になるものだ。今年の暑さもあろう。

【九月三日】夕方と夜に雷鳴、にわか雨、稲光りもまじる。〔これで
夏も終わるのかと思ったが、このあとひと月も暑さは残った。〕

 余計に蒸し暑くなった。このしぶとい暑さが頭痛を引き起こしたのか
もしれない。天音の調子が安定しているのはたすかる。だいたいこの子
は冬より夏のほうが元気である。

 私は倒れてから二年をへてどうやら夏のほうが体調がくずれやすいと
気づいた。だいたい脳梗塞におそわれたのが一昨年の七月だったから、
汗をかいて体内の水分が減り血液が粘ってくるのがよくないのだろう。

 外出のさいには水筒がわりのペットボトルにお茶をいれて持ち歩き、
ちょびちょびと水分を補給するようにしている。酒類ではない。

 心臓の心房細動(不整脈)は薬によってコントロールされているよう
なのだが、問題は血流である。さらさらと流れておればいいけれど、動
脈硬化や粘った血液により血栓ができるのが怖い。これが脳へ血流にの
って飛んでいくと、梗塞を起こすわけだ。心配してもいたずらに怖がっ
ても仕方がないので、気にせずとらわれないようにはしている。

 血流といえば、狭心症で冠状動脈が詰まって手術できない状態になっ
ても《レーザー手術といって心臓の筋肉にいくつか孔を開けると、血流
が再開することもわかって、行われようとしている》とのことである。
(宮田親平氏が「からだについてのキクはなし 心臓移植、もう一つの
治療法」として書いている。角川書店のPR誌「本の旅人」99年5月号
より)

 生体移植に代わる心臓手術法があるらしい。宮田氏によると、ブラジ
ルの外科医が考案したバチスタの手術がそれで《心臓移植を受けなけれ
ばならない患者の多くは、拡張性心筋症といっていろいろな原因で心臓
の筋肉が弱り肥大してしまった場合だが、これに対して、大きくなりす
ぎた心臓の筋肉を一部切り取って縮めるという手術》で弱くなっていた
筋肉が元気になるという。ドナー不足を補う治療法として注目されてい
るとか。

 まえに主治医に心房細動は治せますか、と聞いたら「移植しかないで
しょう」といわれた。脳死による生きている状態、生体の心臓を移植す
る以外に方法は無いと誰がきめられるのだろう。生きていることはいい
ことと思うが、ドナーの善意が医学(医療ではない)の徒である医師に
よって踏みにじられないか、私は危惧をもつ。この脳死と生体移植の問
題については、また別に考えてみたい。

 医学も科学のひとつであるなら「患者」に生体移植しかないと思わせ
ず、宮田氏が示しているような最新の、あるいはもう一つの治療法を提
案すべきではないか。そのうえでアメリカかブラジルでしか手術できな
いのなら、病者を送りだせばいいと思う。その自己決定なり選択は、本
人と家族にまかされるべきなのはいうまでもない。

【九月七日】ひと月かかった文献資料の読みと原稿書きも終えて、散
歩を再開する。ほっとしたせいか、足の運びも真夏よりは楽である。

【九月十日】昨日、病院の帰途、友人が一人でやっている出版社に寄
る。酒呑み、飲み助のこの年長のEさん、事務所の小卓に枝豆に竹輪や
蒲鉾を並べる。コンビニでととのえたものか。ビールが尽きると日本酒
がでてきた。困ったもんである。むこうも暇ならこっちも暇。あくまで
冷静な私は、一升瓶を抱えてニマーッと衝立から現れたEさんに、日本
酒は断り持参のお茶を飲んで間をもたせた。

 企画出版は不景気で本が売れないのでほとんどやらず、社史や自費出
版でなんとかしのいでいる。この人に「あまね通信」の印刷会社を紹介
してもらったのである。手すりのない階段を壁に手をあてて降りきった
とき、自分の冷静さをほめてやりたくなった。自分でほめても嬉しいな
あ。おっとこれは酒精のなすところか。

 アルコールがよかったのか、昨晩はよく眠れた。なんだかもう不眠と
はおさらばできそうな気がしてきた。ときに羽目をはずすのもよいもの
だ、とひそかに日記に記す冷静な私である。(初出「草の根通信」一九
九九年十一月号、単行本未収録)

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■2■[家事細見帖]ちゃぶ台上のモノの巻_/~岡本尚子

 【誕生日 百日紅(ひゃくじつこう)の ように生き】

 暑かった。ひたすら暑かった。どんな炎天下でも平気で、ふるふると
咲いている百日紅が好きだ。

 サイフ二つ、アルミ缶二つ、コップ五個、バラバラ新聞、チラシ、は
し二本、コンタクトレンズケース一個、青のりの袋、アイスクリームの
カップのから、スプーン、皿一個、携帯電話一つ。

 朝起きるとちゃぶ台の上にのっかっているもの達である。それを横目
に見ながら、みそ汁と弁当を作り始める。一番上の息子をまず一番に起
こし、ちゃぶ台を半分片付け、飯を食わせる。出勤すると、ちゃぶ台の
上を全て片付け、台ふきでふいて残りの六人で朝食。小学生と中学生は、
食器を片付けるが、大きい子は片付けない(その子たちも小さい時は片
付けていた…)。

 「うわああ~遅刻や遅刻や」。大学生、高校生、中学生も小学生も、
バタバタとトイレに入り、着がえ、駆け出していく。

 ちゃぶ台を見ると、山盛りに新聞やチラシ、マンガの本(チコクやと
いいながら読んでいる!)、おかしのクズ、包み紙(チコクやといいな
がら食べている!)、メガネ、コンタクトレンズケース、教科書、ノー
ト、プリント…。

 夏休みの間は、朝のそうじの時に子どものうち誰かがちゃぶ台を片付
けなくてはいけないから「うわあ、あいつ、ゴミぐらい捨てろよな」と
ブリブリ言っていた高校生も自分は、ゴミ、メガネ、コンタクトレンズ
ケースをちゃぶ台に置いて行く。

 子どもたちがいる日は、ちゃぶ台は昼ごはん前にも山盛りになってい
る。昼ごはんの前後にも片付ける。

 晩ごはん前にも後にも同じようなものがたくさん並ぶ。

 ねる前、見ても山盛り。コップを片付けたり、ゴミを捨てたり…。だ
けれども朝起きると、また冒頭のものが並ぶのだ。

 私は、この、くり返しの、中で、生きている。

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■3■編輯後記henshukoki

◇足かけ八年にわたって、月刊ミニコミ「草の根通信」に連載で書かせ
てもらった。毎回四百字で十一枚ぐらいだったろうか。『娘天音 妻ヒ
ロミ』と『不思議の天音』という二冊の単行本にまとめて、ジャパンマ
シニスト社から出版できた。(在庫ふんだんです。ご注文ください。サ
インと落款おしてお送りします)
○ジャパンマシニストのホームページにおける平明本案内
『娘天音…』http://www.japama.jp/cgi-bin/detail.cgi?data_id=55
『不思議の…』http://www.japama.jp/cgi-bin/detail.cgi?data_id=53
『イノチの天音』(雑誌「ちいさい・おおきい」に連載したものをまと
めました)
http://www.japama.jp/cgi-bin/detail.cgi?data_id=54

◇本誌「そぞろ通信」に載せている[1]の文章は、天音が生きていたら
おそらくまとめて出版したはずである。あの子の死後、松下さんに言っ
て連載をやめさせてもらった。だから、単行本に収録されなかった文章
をここに収録して、拙著の読者で「草の根通信」を購読していない人む
けに読んでもらおうと思っている。

◇天音堂ギャラリーにかかわることは、インターネットの「さるさる日
記」に書いています。これは自分のホームページがなくても、フリー
(無料)でレンタルしてくれるものです。アップロードも実に気軽にでき
るので、ぼくみたいな永遠ビギナーでもつづけてやれている。消息がわ
りに読んでくだされば嬉しいです。

◇ケータイにも対応しています。購読はもちろん無料です。タイトルは、
【「天音堂ギャラリー」堂守そぞろ日誌】。グーグルやヤフーなどの検
索サイトでこの言葉を入力してもヒットします。ここから次のアドレス
をクリックしてもサッと日誌へ飛びます。
http://www3.diary.ne.jp/user/348493/

◇急に決まった企画あるいはオフ会とか飲み会の告知、緊急の助っ人の
お願いなどを、この日誌に書いていきます。共に散歩し隊、一緒に飯喰
い隊、打ち上げや軽く一杯呑み隊にも、緊急出動の要請を送りますので
つきおうたってください。

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◎本誌は【1行32字】で改行、閲覧には【等幅フォント】が推奨です
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月刊【そぞろ通信】9月号_#36□2004_9_23発行配信
創刊2001-10-16□「あまね通信」改題通巻121号

編輯発行人□山口平明(天音堂ギャラリー)

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*「そぞろ通信」遅くなって九月号。ココマデ。近況お便りください。
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by amanedo_g | 2008-09-06 00:10 | haymay 山口平明
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