【平明文集】☆「そぞろ通信」37号☆2004-10-25配信分

〇堂守こと山口平明が過去に書いたテキスト(文章)を再録転載しています。
ご興味のあるかたは、左下のMoreをクリックしてご覧ください。
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山口ヒロミ、terra cotta、2003




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★そぞろ通信#37★10月号*2004_10_25
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発行☆山口平明(大阪・天音堂G)
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■もくじ■

[1]archives◇ 十八歳、天音の四季をたどる《6》_/~山口平明
[2]連載[家事細見帖] ヨメと仏事の巻_/~岡本尚子
[3]編輯後記[避けられないのかマンネリズム]_/~haymay山口

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■1■《archives》十八歳、天音の四季をたどる《6》[一九九九年十月] 山口平明

【五年前、あなたはどこでなにをしていましたか】

※以下の文章は、一九九九年(天音の死の前年)、天音が十八歳のころ、松下竜一さん主宰発行のミニコミ「草の根通信」に毎月連載で書いていたものです。なお松下竜一さんは、今年六月十七日に逝去されました。

◆━━━━━━貴女のような人はきっと━━━━━━◆

【十月四日】朝というべきか夜中とするべきか、午前三時か四時か、まずくすると四時か五時に、天音は眠りについたはずである。母と娘の寝息を襖ごしにうかがう。静かだ。

 電話の呼び出し音を「切」にしてそのむねをメモに残して午前十時に外出する。電話器の留守番機能が故障して使えない。不便といえば不便だが、なければないでどうということはない。多機能を自慢にされても、使うこっちが脳卒中後遺症のぼけぼけ頭であるからして単機能で充分なんである。そういえば昔のダイヤル式の黒電話なんか故障知らずだったよなあ。

 私たちのミニコミ「あまね通信」82号の版下を、歩いて十五分の印刷屋さんに持っていく。私らが使っている版下用紙が分厚くて扱いにくいという。もう少し薄くて腰もある用紙が業務用としてあるので、取り寄せてもらうことにする。ありがたい。お互いの仕事がやりやすくなるように工夫しあうのは気持のいいものだ。

【十月六日】「あまね通信」82号がなか一日でできてくる。あらかじめ切手と宛名用紙をはって差出人住所氏名のゴム印をおしてある角形6号封筒に、できあがったA5判32頁針金中綴じの「あまね通信」をいれていく。明日には発送できるだろう。印刷と製本を外注するようにして二号目、ほんとにほんとに楽になった。

 ミニコミなどというものは出したいからだしているのであって、それに対しいくら切手代だといったところで読者からお金をいただくのはよくないと思っていた。しかしわが貧窮はいかんともしがたく、一九九八年末に購読料カンパを読者にお願いしたところ、ただちに郵便振替でカンパが届けられはじめた。これで切手代のみならず、印刷費もなんとかまかなえるとメドがたち、今年一九九九年七月刊行の81号から印刷屋さんにお願いしておるようなしだいである。

 読者の宛名を見ながらあれこれ思いをめぐらしつつ行う発送作業は、和やかな夫婦団欒のひとときでもある。ただし天音の「抱っこせえい」という脅かしの叫びが、むつまじいわれらの間に割りこんでくる。まさに天音からの通信、天の音を伝える便りなのだ。封筒をあけた読者は「ぎゃあー」という天音の怒声か、「ぐる、ぐる」という喘鳴を耳にするにちがいない。

【十月九日】妻君・ヒロミさんは天音の世話だけでも忙しいのに、銅版画に編物にプール通い、もちろん「あまね通信」の制作、原稿書き、たまの講演などなど、あれよあれよの奮闘ぶりである。ところがときどき慨嘆するように「あーあ、つくづく体力がなくなったわア」というので、おいおいそれだけあれこれやって体力がないもないもんだ、と内心で思うのだが「ご苦労さまあ」としかいわない体力なき気弱な私なんである。

 それに去年からはパソコンまで始めてしまった。ワープロは私の手ほどきで数年前に会得していた彼女だが、取扱説明書と首っ引きで年初にパソコン通信に加入、最近ではインターネットなんぞにとりくんでいる。でもときどき「あーあ、さっぱり分からん。時間損した」といってるところをみると、そう快調にパソコンを楽しんでいるふうではないようだ。

 倒れてからの私は、新しいことを覚えたり習得するのが苦手になった。パソコンへの興味はわきはするものの、マニュアルの細かな字を読むことだけでもきつく、おまけにキーボードでのローマ字入力はゼロからの出発となるから、いま少し体調が復するのをまってからにしようと思っている。

 私はもともと左右の視力にかなり差があり、発病前は近視をコンタクトレンズで視力矯正できていたのに、脳梗塞以降はレンズのつけ外しが面倒になって、眼鏡のほうが楽になった。

 眼鏡では両眼そろった適正視力はまったくでない。取材してまわるような仕事がこなくなって遠方を見る必要がなくなったせいもあり、自宅にいてときに近所をほっつき歩くぐらいなら、左右異なる視力しかでない眼鏡で充分なのだ。

 裸眼で本を読んだり眼鏡でワープロの画面を見るときは、どちらか片方の眼しか使わないからひどく疲れる。コンタクトレンズをはめると、老眼がでて小さな活字が見にくい。じつに厄介千万である。

【十月十三日】「あまね通信」の読者RTさんから電話。小学校への入学を来年にひかえた障害をもつ娘さんのことで、周囲からのさまざまな声に悩んでいる。妊娠中、胎児が障害をもって生まれる可能性が高いといわれていたのに、なにくそ育てていくわよと生んでみたら診断通りの重い障害をもっていた。就学時期になって周囲の「そらみたことか」の声に、心がひしげそうになっているという。

 母親同士のほうがいいかと妻君とかわる。就学前の健康診断にいく前に用意した主治医の診断書に記された内容を見て辛くなった。なぜ私はあのとき周囲の声に反してこの子を生んでしまったのか。取り返しも引き戻しもならない過去に思いはめぐり、胸が苦しくなってそれに自分自身が重い病気にかかっているし、思いあまって電話をよこしたのらしい。

 彼女は在日(韓国・朝鮮)で、子どものころ生活保護を受けるような貧しい家庭だった。しかも両親を早くに亡くしている。この人に私(たち)はどんな言葉をかけてあげられるだろうか。私たちはただ話を聞いてあげる以外になにもかなわない。

 ヒロミさんは「仮にそのお子さんを生まなかったとしても、あなたのような人はその後もきっと別の正しいけれどしんどく辛い決心とか選択をしていたと思うわ」と話していた。そうなんだよなあ、まったくそうなんだよ。ヒロミさんならではの言葉に私も横でうなずくばかり。

 かねてより他者に「頑張ってね」なんてそういえたもんじゃないと考えている。でもこんなとき、彼女には「あなたってそういう人なんだから」と全面肯定の言葉を添えて「頑張って」といってあげてもいいんじゃないかと思う。

 どんなに能力があり自信にみちているようにまわりから見られている人でも、本人は思いのほか脆くて弱い内面をかかえている。シャンソン歌手の越路吹雪だったかが、舞台にでていく直前に親しい人(夫だったか)に「ワタシきれい?」と問うたというお話。あるいはもと世界ヘビー級チャンピオンのモハメド・アリが「キミは男前だ、偉大だ、キミのパンチは世界一だ、キミは絶対に負けない」と励ましほめまくる人を雇っていたと、徳永進さんが木村聖哉さんの文集から引いていた。(徳永進著『病気と家族』集英社文庫96年10月発行、「私の交遊抄/はげまし人間」による)

【十月二十二日】ヒロミさん、試写会の無料招待券があたって「トーマス・クラウン・アフェア」を、近くの厚生年金会館に見に行く。一枚で二人が入場できるのだが、私は外出の元気がでなくて留守番にまわる。

 ヘルパーさんの帰ったあと、妻君が帰宅するまでのわずかな時間、天音をゆっくり抱いてやる。ヘルパーのお姉さんからお母さんじゃなくお父さんの抱っこに「あれえ?」ととまどいの表情(そう思えばそう見える)の天音にこびるように、お腹や足先をナデナデしてやる。女性のようにやわらかい肌もふわふわのオッパイもない悲しい父は、こんな手でしかとりいることができない。淋しいけれどちょっぴり温かな秋の宵である。

【十月二十五日】このところマンションの共用部分の改装工事がたけなわである。今日は各戸の玄関ドアの塗装工事で、シンナーみたいな石油系の強い匂いが廊下にただよい、部屋のなかまで臭くてたまらない。天音が気分悪くなってはいけないと思うが、臭気は防ぎようがない。玄関に通じる部屋の引き戸をなるべく開けないようにして一日をやりすごした。(初出「草の根通信」一九九九年十二月号、単行本未収録)

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■2■[家事細見帖]ヨメと仏事の巻_/~岡本尚子

 【遺影まで 進みて手には 秋桜】

 仏花を買いに行き、仏壇をそうじして、お茶をかえる。

 その昔、姑にこの仕事を命じられた時は、日本のヨメさんは宗教も選べないのか…と落胆したものだった。私は無宗教だからまだいいけれど、結婚しただけで、宗教も決められ、それに手を合わす。結婚前に宗教をもっている人はつらいだろうなと思った。

 今では、寺でも神社でもお地蔵さんでも、教会でもなんでもかんでも手を合わすようになった私は(いいかげんや)、時々、枯れ枯れの花を飾っていたり、茶も昨日のままだったりするが、「ヨメ」は忘れた。好きでやっている。

 が、盆や法事はしんどいなあと思う。お寺さんに来てもらい、お経をきき、説教をきき、お茶を入れ、お布施を用意し、お供えものを手渡す。これだけでドッと疲れる。

 天音さんを偲ぶ会はお経もなかった。見送る気持ちがあふれるいい会だったなと今でも思う。なすがままにゆれている秋桜は天音さんのイメージだった。

 十年前、取材者だった私をハッと見つめていた天音さん…。四年前、秋桜の中に眠っていた天音さん…。秋桜がゆれているのを見ると思い出してしまう。

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■3■編輯後記henshukoki


◇連載している[1]の文章は、大分県中津市で作家の松下竜一さんが発行していた月刊「草の根通信」にぼくが書いていた文章の再録です。通算六年ほど書かせてもらったのですが、あの子の死後、松下さんに断って連載をやめさせてもらいました。そんなわけで単行本に収録されなかった文章があります。「そぞろ通信」の読者で「草の根通信」を購読していなかった方々に読んでもらおうと思っています。

◇インターネットの「さるさる日記」に書いている【「天音堂ギャラリー」堂守そぞろ日誌】は、画廊の展示予定とぼくの動きについてお知らせするものです。消息がわりに読んでくだされば幸いです。

◇購読はもちろん無料です。グーグルやヤフーなどの検索サイトで、この言葉を入力してもヒットします。次のアドレスをクリックしてもサッと日誌へ飛びます。
http://www3.diary.ne.jp/user/348493/

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これはまたオフ会の名称でもあります。よろしくよろしく。

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◎本誌は【1行32字】で改行、閲覧には【等幅フォント】が推奨です
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月刊【そぞろ通信】10月号_#37□2004_10_25発行配信
創刊2001-10-16□「あまね通信」改題通巻122号

編輯発行人□山口平明(天音堂ギャラリー)

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*「そぞろ通信」ベタ遅れヤ十月号。ココマデ。近況お便りください。
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by amanedo_g | 2008-09-07 00:10 | haymay 山口平明
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