【平明文集】☆「そぞろ通信」38号☆2004-12-4配信分

〇堂守こと山口平明が過去に書いたテキスト(文章)を再録転載しています。
ご興味のあるかたは、左下のMoreをクリックしてご覧ください。
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山口ヒロミ、terra cotta、2003





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★そぞろ通信#38★11月号*2004_12_4
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発行☆山口平明(大阪・天音堂G)
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■もくじ■

[1]archives◇ 十八歳、天音の四季をたどる《7》_/~山口平明
[2]連載[家事細見帖] よその台所の巻_/~岡本尚子
[3]編輯後記[メルマガは盛りを過ぎたか]_/~haymay山口

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■1■《archives》十八歳、天音の四季をたどる《7》[一九九九年十
一月] 山口平明

【五年前、あなたはどこでなにをしていましたか……】
以下の文章は、一九九九年(天音の死の前年)、天音が十八歳のころ、
松下竜一さん主宰発行のミニコミ「草の根通信」に毎月連載で書いてい
たものです。なお松下竜一さんは、今年六月十七日に逝去されました。

◆━━━━━━「小さい弱い」の不思議━━━━━━◆

【十一月一日】昨日から一週間、マンション一階の車路出入口のシャ
ッター当番にあたっている。朝七時に開けて夕方七時に閉める。その年
度の管理組合の役員が交代で行い、年に数回まわってくる。

 夜型の生活のわが家にはきついお役目である。しかし、病後の私はこ
んなときには、ちょうど早起きしたいと思っていたから好都合だ、これ
をよいキッカケに朝型に挑戦してみよう、と考えを切り換えられるよう
になった。これもまた病人力か。

 目覚まし時計のベルに頼らなくとも目覚めた寝床で、いつもの血流始
動の自分流体操をゆっくりとやり、もたもたとしながら着替えて、七時
前に三階の自室から一階に降りる。

 入路側のシャッターを開けると同時に若い男が入ってくる。住人なの
だろうか。百戸近くの集合住宅では住人の顔はほとんど知らない。シャ
ッターが巻き上がる間、彼の行方を追うと、車庫のほうへ曲がって消え
た。出路のほうは早く車を出した住人がいたのかすでにシャッターは上
がっていた。

 ふと見ると出路の端で彼が煙草に火をつけている。住人ではなく外部
の人間のようだ。こういうとき、都会の無関心で不干渉なつきあいの弱
みがあらわになってしまう。アメリカなら不審な侵入者とみて銃でも持
ち出しかねないところだ。といっても私は海外へは全然行った体験はな
く、テレビや新聞雑誌の断片情報でゆうておるので、ええかげんなのは
ご承知あれ。まだまだ緑を残した銀杏の並木を眼におさめて自室へ引き
上げる。

 私たち夫婦で執筆寄稿している季刊「ちいさい・おおきい・よわい・
つよい」誌25号が届く。今号の裏表紙にヒロミさんの銅版画七点が、原
画に近い色合いで「ギャラリーAmane」と題して、通信販売向けの
広告仕立てで掲載されている。色が上品でいい感じに仕上がっている。

 「草の根通信」に連載させてもらった文章をまとめた本『娘天音 妻
ヒロミ/重い障害をもつこどもと父の在り方』(97年、ジャパンマシニ
スト社発行、前出の季刊誌も同社刊)の表紙と中扉に使った絵を、奇特
な愛読者(いるとして)や天音ファン(いるとして)に買っていただこ
うという企画の一環なのだ。銅版画は油絵などの一点モノと異なり、複
数の作品がえられるので広く頒布もできるけれど、価格は当然に低くな
る。

 さて読者の反応はいかに。「こんなに扱ってもらえるのは本当に嬉し
いけれど、技術が今よりもっと未熟なときの作品だから恥ずかしいわ」
と珍しく弱気なヒロミ画伯なんである。

 絵の上手な人や実物そっくりに描ける画家は世の中に多くいる。絵は
上手い下手やないよ、絵は画家の内面をどれだけ表現しているか、が肝
心。長年にわたる習練の結果で得られる高度な技術は晩学の彼女にはと
うてい身につくものではなかろう。そんなものより、子どもの絵や素朴
派のそれに描かれているような心であり魂こそが、ヒロミさんの絵につ
ながるものだ。

 これまでヒロミさんの絵は、フリークな存在としての天音を独自のイ
メージとして新しくとらえなおし自己の内面をくぐらせて、おどろおど
ろしい時空を、あるいは摩訶不思議なる肉体の美を描きだしている。だ
から大丈夫、自信をもっていい。

 ここまで偉そうにゆうたもんの、例によってなんの確信もない門外漢
の私なんである。ヒロミさんが好きな道を歩いていってほしいから、た
だただ励ましているだけであって、分野はちがえ同じ表現者として私自
身にいいきかせているようなものなのである。

【十一月三日】祝日で銅版画教室はお休み。妻君は絵のほうの友人た
ちの個展を見学に行く。帰りにプールにまで寄ってさっと泳いできた。
忙しく駆けまわる彼女のアシは自転車(ママチャリ)、ほんとにその行
動力には驚く。例によって私は、ヘルパーさんに抱っこされた天音とお
留守番。いかに夫婦であろうとも人生いろいろである。

【十一月五日】「ちお」(「ちいさい・おおきい」の略称にして愛称)
のひろみさん(妻君と字は違うが同名、今回の企画の仕掛け人)から
「絵の注文第一号、今日ありましたッ」と電話がはいる。奇特な人か天
音ファンかは定かならず。「おは」の裏表紙を見て注文の電話をくれた
そうだ。「おそい・はやい・ひくい・たかい」という「ちお」の姉妹雑
誌にも同じ広告がでている。第一号が「おは」の読者からとは意外な展
開だ。

【十一月十五日】午前三時ごろに寝ついて七時には眼がさめる。これ
も老人力か。枕許に置いてある須賀敦子『本に読まれて』(98年、中央
公論社刊)を開く。付箋をつけた頁には次のような文がある。《自分は、
若いころにヨーロッパに興味をもち、イタリアにのめりこんで、それは
それで落ち着いていた。ところが、還暦を過ぎてから、ヨーロッパその
ものについても、イタリアについても、自分のそれまでのアプローチが
ひどく狭くひとりよがりなものに思えて、古代からの文化の流れに、つ
よく惹かれるようになった。あと何年ほど、たしかな頭脳で本を読みつ
づけられるのかと、時間に追われるあせりで、夜半に目がさめたりする》
との一節が胸に迫る。

 私は須賀さんの文体が好きなのだけれど、書評のなかにそっとしのば
せるこんな独り言にひきつけられる。もうこの人はこの世にいない。彼
女の新しい文章が読めないので、よけいに愛惜の思いでとりだしてみた
りする。

 ヒロミさんは午前中に天音の薬を処方してもらいに阿倍野の大学病院
へ行き、その帰途、画材店に寄り額を注文(全然絵の注文がないのも企
画者に悪いし、かといってたくさん注文がきても大変なことになるが、
額はあらかじめ用意しておかねばならない)。また友人の個展をのぞい
て帰ってくる。これらはすべてママチャリでの外出である。彼女の疾駆
する姿は、天音に費やされたこれまでの年月をとりもどすための《時間
に追われるあせり》が生んだ活力じゃないか。

 私は妻君を送りだしたあと、自分の身支度を先にすませ、寝床から居
間のソファに天音を抱いてきて、ゆるゆると着替えをさせる。口を大き
くあけ首を後ろへ反らせる天音の「あんぐり発作」に抵抗しつつ、パジ
ャマを脱がせブラウスとカバーオールを着せる。

 お母ちゃんのように手早くできない父のやり方をとがめるように「あ
んぐり発作」攻撃が連発される。いま発作といったが、脳が原因の痙攣
によるてんかん発作ではない。「あんぐり」は天音だけの動作による固
有の言葉じゃないかと思う。これもこの子と十八年も共に棲み共に暮ら
してきた経験と観察から推測しているにすぎない。あたっていようがは
ずれておろうが構わない。勘みたいなもんである。

 夜中にNHKの再放送番組で「いのち再び 生命科学者 柳澤桂子
(ドキュメントにっぽん)」を見る。原因不明の病気で、めまいと吐き
気、手足の痺れと痛みから寝たきりになった柳澤さんの、九八年七月に
服用した薬が効いて奇蹟のように恢復した姿を追いかけた映像ドキュメ
ントである。

 彼女は闘病生活のなかで、生命科学者として「生命とは何か」を考え、
二十冊余の本を著してきている。激痛から尊厳死まで考えたこの人が、
痛みが消えた現在、雑誌のインタビュウで語った言葉に私は打たれた。
兵庫県姫路市の森本利明さんが発行するミニコミ「ゆうとぴあ通信」29
号に、柳澤さんの言葉がまとめて記されていたのを参考にさせてもらっ
た。

 《痛みがとれてみると三十年来の苦しみは何だったのか、現代医学の
狭間で翻弄された自分の人生を思うとき、この宇宙のなかに裸で放り出
された人間の小ささを強く感じる。特定の宗教は信じていないが、自然
や宇宙の何か大きなものに対しては、信仰につながるような畏敬の念を
もつ。科学により大自然の営みを調べれば調べるほど、人間の小ささ、
弱さを思い知らされて謙虚な気持ちになる。》 [つづく]

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※★★※この[1]の文章は、初出が「草の根通信」二〇〇〇年一月号で
ある。天音が今も生きていたらおそらくまとめて出版したはず。あの子
の死後、松下さんに言って連載をやめさせてもらった。だから、単行本
に収録されなかった文章をここに収録して、拙著の読者で「草の根通信」
を購読していない人むけに読んでもらおうと思って再録している。

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■2■[家事細見帖]よその台所の巻_/~岡本尚子

【顔ゆがめ 引き摺(ず)られゆく 運動会】

 毎日台所仕事をするようになって二十余年、どうにもこうにもどう
しても不思議な謎があった。台所は使えば、油はね、水はね、汁こぼれ
…これは絶対にある。が、何故に、よその台所は美しいのか。ずうっと
不思議でたまらなかった。

 流し台、調理台、レンジ…、油コテコテ、水あかヌルヌル。たまにし
か拭かないから、そうなるのはトーゼン。では、毎日拭くのか? 全部?
ウソだ、毎回毎回拭くなんて。

 が、ある日新聞の家庭欄を読んだら、「台所はモノを出しっぱなしに
しないこと。使ったらしまう。モノがあると拭くのがメンドーになる」。
うーん。常に拭けと書いてある。ゲェー。やっぱり、それでヨソ様の台
所はキレイなんだ。ううっ。

 よしっ!私だってやるゾ!ある朝ふきんを調理台に置き、卵をこぼし
たら拭き、煮汁をこぼしたら拭き…しながら朝ごはん、ベントーを作っ
た。

うーん、そうか、なかなかイイゾ。モノをしまいながら、汚れを拭きな
がらやれば、あとで弁当箱を並べる時に片づけたり、拭いたりしなくて
もいい。調理台もピカピカここちよいワ。ルンルン。

 と、「おかん、弁当! もう行くで」。息子が走り出す。うわああ、
待って待ってえな。子どもの運動会も終わったというのに、弁当もって
私(おかん)は走る走る。

 あれえ? 拭きながらやったら、遅なったんやんか。どないしたらえ
えねん。私は弁当を息子にパスし、立ちつくしてしまったのだった。

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■3■編輯後記henshukoki
▽ブログが大流行だそうな。ぼくが毎日書いている堂守ウェブ日記はブ
ログにかなり似ている。違うのはコメントとかトラックバックの機能が
ついていないこと。画像が扱えなくてテキストのみなのもブログと違う。
カレンダーの日付をクリックすると、その日の記事が読めるのは一緒。

▽いまのところ、不自由は感じていない。メルマガ「そぞろ通信」(本
誌)の発行が遅れがちになってきたのは日記を書くせいだ。できるだけ
最新の文章を読んでもらいたいと思う。どうしたって日記のほうに力を
いれがちだ。広がりやつながりを考えるとブログのほうがいいらしい。
これでブログに取り組むと、パソコンの前にへばりつき状態になる。そ
んな時間はないから、当分ブログではなくウェブ日記でやっていくつも
りだ。

●お知らせ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
~~~~~~~~~~~~~【「天音堂ギャラリー」堂守そぞろ日誌】~~~~~~~~~~~~~

★天音堂ギャラリーにかかわることは、インターネットの「さるさる日
記」に書いています。これは自分のホームページがなくても、フリー
(無料)でレンタルしてくれるものです。アップロードも実に気軽にでき
るので、ぼくみたいな永遠ビギナーでもつづけてやれている。消息がわ
りに読んでくださればありがたい。購読はもちろん無料です。タイトル
は、【「天音堂ギャラリー」堂守そぞろ日誌】。
グーグルやグーなどの検索サイトでこの言葉を入力してもヒットすると
思います(ちょっと自信ない)。ここから次のアドレスをクリックしても
サッと日誌へ飛びます。
http://www3.diary.ne.jp/user/348493/

◇ケータイにも対応しています。
http://www3.diary.ne.jp/i_log.cgi?user=348493&log=now

◇急に決まった企画あるいはオフ会とか飲み会の告知、緊急の助っ人の
お願いなどを、この日誌に書いていきます。共に散歩し隊、一緒に飯喰
い隊、軽く一杯呑み隊にも、緊急出動の要請を送りますのでつきあって
やってください。

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◎本誌は【1行32字】で改行、閲覧には【等幅フォント】が推奨です
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月刊【そぞろ通信】11月号_#38□2004_12_4発行配信
創刊2001-10-16□「あまね通信」改題通巻123号

編輯発行人□山口平明(天音堂ギャラリー)

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*「そぞろ通信」いちおう霜月号。ココマデ。消息お便りください。
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by amanedo_g | 2008-09-08 00:10 | haymay 山口平明
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