【平明文集】☆「そぞろ通信」39号☆2004-12-30配信分

〇堂守こと山口平明が過去に書いたテキスト(文章)を再録転載しています。
ご興味のあるかたは、左下のMoreをクリックしてご覧ください。
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山口ヒロミ、terra cotta、2003






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★そぞろ通信#39★12月号*2004_12_30
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発行☆山口平明(大阪・天音堂G)
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■もくじ■

[1]archives◇ 十八歳、天音の四季をたどる《8》_/~山口平明
[2]編輯後記_/~haymay

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■1■《archives》十八歳、天音の四季をたどる《8》
[一九九九年十一月] 山口平明

【五年前、あなたはどこでなにをしていましたか……】
以下の文章は、一九九九年(天音の死の前年)、天音が十八歳のころ、
松下竜一さん主宰発行のミニコミ「草の根通信」に毎月連載で書いてい
たものです。なお松下竜一さんは、今年二〇〇四年六月十七日に逝去さ
れました。六十七歳。

◆━━━━━━イノチの芯は羊歯みたいに━━━━━━◆

【十一月十六日】昨夜、天音は眠れなかったようで、泣きつづけたせ
いか異常なほどに汗をかいている。いつものように母親が着替えさせて
やる。

 昼過ぎからやっと本日初めての食事を哺乳瓶で飲ませる。食べおわっ
てしばらくすると、ソファの上でのけぞるようにしながら口を大きく開
けて息を吸うばかりである。例の危険な呼吸不全の発作(過呼吸症)が
はじまりそうだ。やれやれ。

 妻君がなれた手つきで胸を抑えて息を吐かせるようにしてことなきを
えたものの、いかにも不機嫌である。夕方になって躰が熱いので、体温
を計ってみると三八度六分、平熱は三六度少しだからかなり高い。夜中
にかいた汗で冷えたのか、あるいは脱水症で発熱したのだろうか。

 私たちはこんなときお医者さんみたいに病気の原因をあまり考えない
ようにしてきたところがある。だけど原因や病名が分からないと治しよ
うがないではないか。そのとおりだが、急性症状でないかぎり、少し時
間をおいてみる。食事や睡眠時間、ふだんとなにか変わった様子はなか
ったか、思い返して夫婦で検討していくと、そう大騒ぎしなくてもよい
と腹がすわる。

 このへんは十八年余も娘と「在宅」して共に住み暮らしてきた者の強
みである。熱はある程度出してしまったほうがいいという私の体験上で
の思いもある。信念じゃなくて居直りか。

 病んだ子をお医者さんに渡してしまって、親は自分の不安から逃れよ
うとする。あとは専門家に任せてなんとかしてもらえる、してくれるは
ずとひとまず安心する。

 熱で苦しんでいる子を前にして、わずかな時間、手をこまねいている
ことの大切さを私たちは知っている。たとえ「なんでこんなになるまで
つれてこなかったのか」とお医者さんに叱られても、苦しげな子ととも
に「苦しいなあ、しんどいねえ」と抱っこしなでさすった時間は「それ
でいいのだ」と思いきるようにしている。

 むろん落ちつきはらっているわけではない。妻君もだが私なんかおた
おたしてしまう。ここが我慢我慢とおのれにいいきかせる。つらい、つ
らい、身代わりになってやりたい。ごめんね、ごめんねえと娘に詫びつ
づける。

 抱っこばかりで山積みの仕事を片づけられない妻君は苛々として「な
んでこんなに次から次と苦労せんといかんのよお」とほえる。

 私は表面は落ち着いたふりをして、ひたすら心中で祈る。痛みもつら
さもなにも言葉で訴えられない天音にとって、眉根のあいだにできた縦
皺がそれらを表しているようだ。

 おだやかに昨日が今日になり、やがて大きな変化もないだろう明日が
やってくる。この反復性こそイノチの根源にひそむものではないか。保
守性といってもいい。それはまるで根をしっかりとはった立派な樹木の
ようだ。

 天音の躰の芯には、きっとか細い羊歯(しだ)植物みたいな葉がはい
のぼっているにちがいない。だけどその葉は太い茎にも幹にも匹敵する
ような勁さをもっているにきまっている。

 夜中には三七度ちょっとまで下がってくれる。やはり脱水症からの熱
かなあ。三人とも眠れない。ぐずぐずと母の胸で泣きつづける天音。

【十一月十七日】熱はない。一日で下がったのだ。咳と痰がでてきた
脚湯がよかったのかもしれない。これからじわじわと痩せていくにちが
いない。一緒に妻君も痩せるかというとそうはいかない。

 熱がすぐ下がったせいか、そう苦しそうではない。思いきってヒロミ
さんには銅版画教室に行ってもらう。ヘルパーさんの抱っこの間、私た
ち二人は家の内外で一休みしようとの心算なんである。

【十一月二十日】近所の店で買った電気マットというか座布団がなか
なか具合がいい。お尻があったかい。

 文章を書くときは頭がカッカとしてくるから室内は寒いほうがいい。
でも脳梗塞で倒れてからはそうもいくまいと安全策で電気座布団にして
みた。よほど寒いときは小さな電熱ヒーターをつけるか、膝掛けをかけ
るぐらいだ。部屋全体を暖房するのは物書き仕事にはむかない。

【十一月二十二日】天音は再発もせず落ち着いている。それでかねて
より予定してあったヒロミさんの一泊東京行きを決行してもらう。朝七
時に家を出発、新幹線で旅の人となる。去年につづき年に一度のひとり
旅である。

 ありがたいことに天音はおとなしくしてくれる。「静かちゃん」の日
だ。昼から来てくれたヘルパーさんと長丁場のお留守番には幸先がよい。

 私自身の食事は、妻君があらかじめ用意しておいてくれた、おにぎり
とロールキャベツ、生ハムサラダ、蓮根肉炒め、豚汁風スープで二日間
をすませてしまう。外へ食べにいかず。ヘルパーさんに任せて外出して、
天音のご機嫌を損ねたくないのだ。

【十一月二十三日】世間は祝日。昨晩は疲れたのか、父のほうが娘よ
り先に寝てしまった。天音は朝から五時間ほど眠ったみたい。今日もお
となしくしてくれる。嬉しやのう。父もヘルパーさんも気が楽だ。

 夕方七時、母と妻君とヒロミさんがいっぺんに帰ってくる。嬉しや嬉
しや嬉しやのう。お前がいちばん喜んでるやないかって、そうなんです。
助かったあ。天音の顔と躰から緊張がとけていく。やはりこの子がいち
ばん喜んでいるんだねえ、と納得。

 早速、ウンコをさせてから母子の入浴。昨日はどっちもできなかった
からねえ。浣腸での排便も抱っこのお風呂も母さんがいてこそだよねえ、
天音。よかったねえ。にしても駄目な父さんなのであった。

【十一月二十五日】ITさんの娘さんが調子わるく、かつて行った気
管切開の気道と食道の不具合から大阪府母子保健センターで、その改善
手術が九時間におよんだと電話はいる。天音と似た重度障害の女の子で
ある。

 寝たきりでいるから胃酸が上にのぼってきてわるくなるらしい。天音
は抱っこしろと抱くまで脅し泣きをして、親に抱っこをねだり躰を立て
ているのがよいのだ。そうにきまっている。横になったままより少しで
も座位をとるほうがよいと、老人介護でもいわれている。胃酸は塩酸だ
から喉に上がってきたら大変だ。

【十一月三十日】友人の近山恵子さんが理事長をつとめる「福祉マン
ションをつくる会」の関西支部セミナーに参加。会場はドーンセンター
(大阪府女性会館)。「ぼけたお年寄りをかかえる大阪府家族の会」の
黒田輝政代表と会員の二人の女性の介護体験を聞く。亡母のことや天音
のことが思い浮かんでつい涙ぐんでしまう。

【十二月三日】講演会づいている。同じドーンセンター。詩人の宗秋
月さんが中心になって、ビデオ(映画)を制作しようという会の設立の
集いに参加する。

 会の名称は『映画「あかしめたち/忘れるための記憶」市民による制
作グループ』の集い、第二次世界大戦から五十五年目を迎える今年二〇
〇〇年、周辺事態法、通信傍受法、日の丸・君が代の法制化などに《時
代を黙視するだけの人生》でよいのか、と自分たちが立っている生活の
場で時代に一石を投じたい、と市民グループを結成、映画制作に取り組
んでいくとのこと(制作基金募集の趣意書による)。

 秋月さんらがやろうとしている運動は、蟷螂の斧ちゅうか、はかなき
抗いでしかないだろう。「賛同人になってね」と有無をいわさぬ彼女の
迫力の裏にひそむ情にほだされて、私はここへやってきたのだった。

 知的障害をもつFさん(故人)と十数年前に大阪市内の作業所で出会
い、彼女は私たちがつれている天音をしきりに抱きたがった。ささやか
な交流でしかない。そのおりにFさんの義姉として紹介されたのが宗秋
月さんだ。私と彼女をつなぐ赤い糸である。 (つづく)

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※★★※この[1]の文章は、初出は「草の根通信」二〇〇〇年二月号、
単行本には未収録。娘・天音の死後、連載をやめた。拙著の読者で「草
の根通信」を購読していない人むけに読んでもらおうと思って再録して
います。

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■2■編輯後記henshukoki

☆とうとう、おおつごもり。娘の月命日(十六日)に発行配信してきた本
誌「そぞろ通信」も、今月も遅れてしまった。まあ、それだけ元気に動
けているという証拠だろう。十二月中に出せたのはまずはめでたい、と
自讃。

☆だれだったか、人間はみんな夭折していくものだ、と聞いた覚えがあ
る。若死に、といっても何年生きるか判らない人間の生は、どんなに高
齢になって死んでも夭逝であり若死にだというのだ。そう聞いて、そう
だ、と膝をうった。天音の十九歳が若死にだし、松下竜一の六十七歳も
夭逝である。いつも生は途中で絶たれてしまうもの。

☆大晦日も極月も師走も、自然の運び行きへの人間の勝手な取決めにす
ぎない。これとても自然の摂理にとって途中でも終りでもない。台風連
続、地震、津波。それぞれのときに途絶えてしまう数多(あまた)の生。
天音のところへ行ける日までの途中の生を愉しみたい。

☆岡本尚子さんの「家事細見帖」はお休みです。 [へ]

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■蛇足■
◇天音堂ギャラリーにかかわることは、インターネットの「さるさる日
記」に書いています。これは自分のホームページがなくても、フリー
(無料)でレンタルしてくれるものです。アップロードも実に気軽にでき
るので、ぼくみたいな永遠ビギナーでもつづけてやれている。消息がわ
りに読んでくださればありがたい。購読はもちろん無料です。
タイトルは、【「天音堂ギャラリー」堂守そぞろ日誌】。
グーグルやグーなどの検索サイトでこの言葉を入力してもヒットします。
ここから次のアドレスをクリックしてもサッと日誌へ飛びます。
http://www3.diary.ne.jp/user/348493/
◇ケータイにも対応しています。
http://www3.diary.ne.jp/i_log.cgi?user=348493&log=now

◇急に決まった企画あるいはオフ会とか飲み会の告知、緊急の助っ人の
お願いなどを、この日誌に書いていきます。共に散歩し隊、一緒に飯喰
い隊、軽く一杯呑み隊にも、緊急出動の要請を送りますのでつきあって
やってください。

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◎本誌は【1行32字】で改行、閲覧には【等幅フォント】が推奨です
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月刊【そぞろ通信】12月号_#39□2004_12_30発行配信
創刊2001-10-16□「あまね通信」改題通巻124号

編輯発行人□山口平明(天音堂ギャラリー)

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*「そぞろ通信」オオみそか極月号。ココマデ。消息お便りください。
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by amanedo_g | 2008-09-09 00:10 | haymay 山口平明
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