【平明文集】☆「そぞろ通信」42号☆2005-4-10配信分

〇堂守こと山口平明が過去に書いたテキスト(文章)を再録転載しています。
ご興味のあるかたは、左下のMoreをクリックしてご覧ください。
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山口ヒロミ、鉛筆画、1995





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★そぞろ通信#42★3月号*2005_4_10
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発行☆山口平明(大阪・天音堂G)
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■もくじ■

[1]archives◇ 十八歳、天音の四季をたどる《11》_/~山口平明
[2]編輯後記_/~haymay

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■1■《archives》十八歳、天音の四季をたどる《11》[二〇〇〇年二
月] 山口平明

以下の文章は、一九九九年(天音十八歳)後半から一年にわたり、松下
竜一さん主宰発行のミニコミ「草の根通信」に毎月連載で書いていたも
のです、単行本には未収録。
娘の天音は二〇〇〇年十月十六日に、十九歳四か月で死去。「草の根
通信」を購読していなかった皆さんに、天音との最晩年の共棲ぶりを読
んでいただきたく「そぞろ通信」に再録しています。
なお、松下竜一さんは、昨年二〇〇四年六月十七日に逝去、六十七歳。

◆━━━━━━ああ不機嫌おそるべし━━━━━━◆

【二月二日】三月発行予定の「あまね通信」を郵送するための角6と
いう大きさの封筒を買いに散歩もかねて出かける。安売りをうたう文具
店なので、一包百枚で定価八百円が四百八十円になっている。当節はな
んでも価格破壊とやらで、定価よりも三割も四割も安い。貧乏人にはあ
りがたいけれども、商売の人たちはたいへんだろう。

 角6という規格の封筒は、A5判のわが通信を入れるのにちょうどい
い大きさだ。A5判というのは、「世界」とか「文芸春秋」の大きさで
ある。また郵便料金では定形(重さと大きさ)の範囲内であれば25グラ
ムまで八十円ないし50グラムまでなら九十円で送れる。この場合、封筒
は長3という大きさになる。

 しかし、表紙に大きく絵を入れてあるため冊子自体を折りたくない。
中の頁にもたくさん絵を入れてある。長3だと真ん中から縦に折らない
と入らないので、折らずに送るために大きな角6封筒を使っている。こ
の場合、定形外になるから百二十円かかる。絵はかならず天音の姿を描
いてあるため、どうしても折り目をつけたくない。郵便局には一部あた
り三十円を余分に払う形になるがしかたないところ。

 郵便料金の百二十円と印刷費用の一部単価がほぼ同じというのは、な
んだかわりきれない。ミニコミも紙に印刷して郵送する形態から、電話
のファクシミリ送信やインターネットによるメールマガジンやホームペ
ージなどの形態にしたほうがよいのかも、と思ったりもする。この手法
だと安くて早い、おまけにすべて自分の手でできる。でも紙に印刷した
ミニコミがすたれるとも思えないのだが。

【二月六日】妻君のヒロミの機嫌がすこぶる悪い。昨日、来客あり。
この人は妻君が小学校の教師をしていたときの同僚で、二人の子どもが
いて下の子は天音と同じ時期に生まれている。彼女はまだ教師をつづけ
ており、その息子を東京の大学へ送りだしている。娘は大学院へ進学し
たという。

 二人の大学生の学費だけで年間二百万円かかる。夫の稼ぎは福祉系の
仕事なので少なく、彼女がもう少しがんばらないといけない。

 ヒロミさんは思う。私だって天音が普通に生まれていたら、彼女と同
じように教師をつづけていただろうし、娘への仕送りでたいへんなのよ、
と嬉しげに話していたにちがいない。たいへんだといっても働き甲斐が
あるもんねえ、育て甲斐もねえ。

 ひるがえってわが子は赤ちゃんのままでいっこうに育たなくて、いま
だにその世話で仕事もできず、ただただ時は過ぎて老いていく、ああ私
はなんという人生か。

 今日は日曜日だというのに寝つきがわるくて目覚めなかったらしく、
妻君はプールへ行けなかった。これもまた昨日の来客の話とともに彼女
の機嫌をますます悪くさせている原因だ。

 夕方近く「気分転換」と称して妻君は図書館へ出かけた。帰ってきて
「図書館でも一日中のんびりしておりたいのになあ」と、取り返しがつ
かないけど、いつまでも心の底にわだかまる毒素をひっぱりだし仕方な
さの渦に身を投げ入れて「不幸」を嘆いている。僕がなんか話しかける
とつっけんどんに答えてくる。

 温泉にでも行きたいよ、というから「行こう」と応じると、「向こう
でも家でやってることと同じこと(天音の世話、たとえば浣腸でのうん
こ)をせんといかんから、行きませんッ」と必殺のアッパーが飛んでく
る。僕も恢復してきたから天音の世話はやるから三人で行こうよ、と挫
けずに意見を具申すると、それなら家でしてちょうだいッ、で粉砕。不
機嫌おそるべし。

【二月十五日】月に一回、先生に来てもらい整体を施してもらう日で
ある。随分いいですよとの診断。カルテも記録もしない人なので、彼の
指先の記憶といおうか躰の気を読んでの診断なのだろう。睡眠時間の短
い夜型の生活で不摂生をしているから、なんだか儲けたような気分にな
る。

 夜だと眠気もおきず本だっていくらでも読めるが、昼間はいけません。
すぐ眠くなってしまう。夜型が僕の本来の生理に相違ない。

 書くのもそう。昼に書くとなんだか気が散りだらけてはかどらない。
文そのものもまとまりがない感じがする。いくら脳梗塞で倒れても永年
にわたって染みついた夜型リズムは変わらないみたいなのである。

【二月十八日】早く目覚めたので小用に起きたときそのまま床をはな
れる。お湯を沸かそうとするが、ガスがつかない。起きだしてきた妻君
にいうと、マッチでつけてくれる。

 発火がうまくいってない。レンジそのものがかなり古いから修理がき
くかどうか、という彼女の言葉を聞き、器具の裏側をのぞく。乾電池が
切れてるのかもしれないと勘が働く。駄目でもともとだからと近所の店
で電池を買ってきて交換すると、前のようにうまく点火するようになる。

 私たち二人の体力の衰えと長い夫婦生活からくる倦怠感に符節を合わ
せるかのように、所帯道具までどれもこれも古びたり故障を起こしてく
れる。新しく買い換えるとしても不意の出費はひかえたいところ。うま
く点火するようになったガスの炎を見ながら、僕はいささかお手柄気分
である。

【二月二十三日】夕刊に《市民運動の情報誌「告知板」》発行人の庄
幸司郎さんが十八日に亡くなった、とでている。一九三一年生まれの六
十八歳。

 僕のちょうどひと回り上になるからあと十二年。六十八歳どころかそ
れまでに脳梗塞の再発で死んでしまわないともかぎらない。

 そうなると天音はどうなるのか。妻君はかつて私より後に死んでねと
いっていた。今はちがう。あなたが死んでも私たちが生きていけるよう
にしていってよ、とおっしゃる。

 もしや両親とも死んでしまったのちにも天音は生きつづけて、どこか
のだれかに抱っこされて、哺乳瓶で食事をしているのかな。死んだらそ
れまで、死ねば死にっきりと思ってはいても、将来を考えると、いくら
愚かで取り越し苦労の嫌いな僕でもいささかはかなくなり心細くなって
くる。

【二月二十九日】僕が永年加わってきた「思想の科学」大阪グループ
の仲間MMさんが、会社の帰りだといって不意にやってくる。

 妻君は夕食の支度で台所にこもっており、僕は天音を抱いてやろうか
と思っていた矢先である。玄関脇の僕の仕事部屋に招じ入れ応対をする
うちに、話がこみいってきてお茶がやがて酒になる。ビールから焼酎に
なってやっと彼もなごみうちとける。酒の効用というやつだ。

 Mさんは僕より一歳上で、ずっと広告代理店に勤めている。過去に結
婚したこともあったらしいが独身暮らしが長い。本好きである。

 サークルで月に一度の例会とそのあとの二次会で話すぐらいの淡いつ
きあいである。でも十年よりもっと前に、得意先が近所にあるとかいっ
て、よく訪ねてきた時期があった。彼も僕もコピーライターで文学好き
なので、よく雑談をかわしたものである。

 もともとサークルは同じような考えや、似たような感じ方をもった人
間の集まりだから、たまたまの出会いからたとえ淡いつきあいであろう
とも、そこへ行けば気持ちがなごみ、まるでなんでも許しあえる家族の
ような居心地のよさが味わえる。血縁でない「家族まがい」とでもいお
うか。

 都会で暮らす砂粒のような僕たちだって、ときに人恋しくなり、お互
いがこわばらず邪心なしに、他愛なく話せるような居場所をほしいと思
う。僕たちのサークルは「思想の科学」という雑誌の読者の集まりとし
て出発したはずだが、肝心の雑誌が廃刊になってもずっとつづいている
のは、社会からの逃避空間になっているからだと僕は思っている。好み
の言葉ではないが、癒しの場とでもいおうか。
(初出「草の根通信」二〇〇〇年五月号)

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■2■編輯後記 henshukoki

▼娘・天音の月命日である十六日に月刊で発行してきた「そぞろ通信」
ですが、今回はパソコンの入れ換え作業で大忙しとなって、おまけに画
廊運営に時間をとられ発行配信できなかった。ご容赦ください。

▼今回の3月号(42号)は遅れ遅れですが、4月10日の日付で発行し、次
号4月号(43号)を4月16日に発行してなんとか追いつきたい。

▼今号から、パソコンの新旧交替にともない配信名簿も編集しなおした
ため、ごくごく少数の読者に送るようにしました。不特定読者のために
は、立岩真也さんのサイトで読んでいただくつもり。またそのように誘
導していきます。
http://www.arsvi.com/0w1/ymgcamn.htm

▼「そぞろ通信」を購読解除したい場合は遠慮なく、件名に「そぞろ配
信停止」と記し、本文は書かない空メールをお送りください。「そぞろ
通信」は、山口平明の文章のアーカイブ(文書保管庫)に特化させます。

▼したがって岡本尚子さんの「家事細見帖」は、連載を終了いたします。
ご愛読ありがとうございました。岡本さん、ご苦労さまでした、おおき
にありがとう。
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■蛇の足■

◇天音堂ギャラリーにかかわることは、インターネットの「さるさる日
記」に書いています。これは自分のホームページがなくても、フリー
(無料)でレンタルしてくれるものです。アップロードも実に気軽にでき
るので、ぼくみたいな永遠ビギナーでもつづけてやれている。消息がわ
りに読んでくださればありがたい。購読はもちろん無料です。
◇タイトルは、【「天音堂ギャラリー」堂守そぞろ日誌】。グーグルな
どの検索サイトで《山口平明》と入力してもヒットします。
◇ここから次のアドレスをクリックしてもサッと日誌へ飛びます。
http://www3.diary.ne.jp/user/348493/
◇ケータイにも対応しています。
http://www3.diary.ne.jp/i_log.cgi?user=348493&log=now
◇急に決まった企画あるいはオフ会とか飲み会の告知、緊急の助っ人の
お願いなどを、この日誌に書いていきます。よろしければ、【更新お知
らせ】に登録してください。方法が判らないかたは連絡ください。

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◎本誌は【1行32字】で改行、閲覧には【等幅フォント】が推奨です
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月刊【そぞろ通信】3月号_#42□2005_4_10発行配信
創刊2001-10-16□「あまね通信」改題通巻127号

編輯発行人□山口平明(天音堂ギャラリー)

※転載は全文をコピペ/引用や複製は典拠を注記/平明に一報されたし
※著作権は執筆者に属しますので、転載引用の時にはご配慮ください
※転送したいとき相手のアドレスを知らせてもらえば直接配信します
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*「そぞろ通信」遅れ遅れの弥生号ココマデ。近況お便りください。
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by amanedo_g | 2008-09-12 00:10 | haymay 山口平明
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